iTECS-2 弾性波レーダーシステム

弾性波レーダーシステムiTECSによるコンクリート構造物の非破壊評価

-コンクリート構造物の新設時の品質確認、施工後のメンテナンスに。

iTECSは構造物に損傷を与えることなく、同じ位置で同じ試験を繰返し行うことができます。これにより、コンクリート構造物の新設段階から供用後まで、構造物の経年変化を把握するなど、コンクリート構造物の適切な維持管理に役立つものと期待されています。
iTECSではコンクリート表面を鋼球などのインパクタ―により打撃し、打撃点の近傍に手で押しつけ設置したセンサーで、打撃により発生する弾性波を測定します。
この弾性波は、コンクリート内部の弾性率や密度によって伝搬する速度が変化する性質、および、内部に空洞などが存在すると空洞位置で反射するという性質があります。iTECSでは、この性質を捉え、弾性波の伝搬速度、反射時間などを測定して、コンクリート表面、内部の状況を非破壊で評価するシステムです。
リック株式会社ではiTECSを活用して、以下のとおり新設時の品質管理から既設構造物の点検・診断・補修まで対応しています。

①「iTECS」、「電磁波レーダー法」、「電磁波誘導法」などによる新設時の【品質管理】
②「目視試験」、「打音試験」等による既設構造物の【定期点検】
③「iTECS」、「電磁波法・電磁誘導法」、「コア採取」などによる既設構造物の【詳細調査】
④詳細調査の結果に基づく既設構造物の【補修提案・補修施工】

特徴

①測定が簡単:
・センサーを測定面に軽く押しつけて、打撃するだけの簡単な測定です。
・コンクリート表面に対して特別な処理を必要としません。短時間で測定できるので、
より多くの測定点での測定が可能となります。
②多機能・高精度:
・iTECSでは圧縮強度、厚さ、欠陥探査など、多くの項目についての測定が可能です。
・コンクリート厚さの測定精度は約±4%です。
③深部までの探査可能:
・コンクリート構造物の厚さ測定、欠陥探査では厚さ100mm〜2500mmに適用できます。
・深さ100mm未満の欠陥(表面剥離)については、欠陥の平面位置を探査することができます。

測定内容

iTECSでは、次の4項目について非破壊試験結果より推定が可能です。
①コンクリートの圧縮強度推定
②コンクリートの厚さ測定や内部欠陥状況
③コンクリート表面付近の品質評価
④ひび割れの深さ

1コンクリートの圧縮強度推定

測定対象のコンクリートの内部を伝搬する弾性波の速度を測定することでコンクリートの圧縮強度を推定します。コンクリート内部を伝搬する弾性波速度とコンクリートの圧縮強度との間には、同一配合であれば強い相関関係があります。つまり、この相関関係を利用して、iTECSにより測定した弾性波速度からコンクリートの圧縮強度を推定します。

測定手順

1.コンクリート打設時に円柱供試体を複数作成し、これら供試体における圧縮強度と弾性波速度の関係から強度換算(あるいは推定)式を求めておく(図-1.1)。
2.コンクリート構造物の任意の場所において、iTECSにより弾性波速度を計測する
(写真-1.1)。
3.図-1.1のように構造物で求めた弾性波速度と強度換算式から強度を推定する。

測定精度

新設コンクリート構造物でiTECSにより推定した圧縮強度と、コア採取による圧縮試験結果を比較した結果は、図-1.2のとおりです。図-1.2より、iTECSを用いた場合、概ね±15%以内の誤差で強度推定が可能となります。

※本測定内容は国土交通省「微破壊・非破壊によるコンクリート構造物の強度測定試行要領(案)」に基づきiTECS法として導入されています。

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(国研)土木研究所のページへ


図-1.2 iTECSによる推定圧縮強度とコアサンプリングから求められる圧縮強度との関係

2コンクリートの厚さ、内部状況の測定

測定の対象となるコンクリートにおいて弾性波の反射時間を測定することにより、コンクリートの厚さを測定します。
コンクリート内部に欠陥等が無い健全なコンクリートは、コンクリート背面までの往復反射時間が測定され、厚さを求めることができます(図-2.1左図)。
しかしながら、コンクリート内部に空洞等が存在すると、コンクリート内部を伝搬する弾性波は空洞面で反射するため、反射時間が短くなり、iTECSによる測定厚さは薄く測定されます(図-2.1中央図)。一方、コンクリート内部にジャンカ等の脆弱部が存在すると、弾性波の伝搬速度が低下するため、反射時間が長くなり、iTECSによる測定厚さは見かけ上厚く測定されます(右図)。
これらの性質を利用して、測線上におけるiTECSによる測定厚さの変化から、コンクリート内部に存在する欠陥等の範囲・位置を推定することが可能となります。

測定手順

1.各側線上において、順次、iTECSによる弾性波の反射時間を測定する(図-2.1)。
2.弾性波の反射時間から測定箇所のコンクリート厚さを推定する。
3.各測点での推定コンクリート厚さをグラフ表示により面的に展開し、コンクリート内部に存在する欠陥等の範囲・位置を確認する。

測定精度

・シールドトンネルにおいて、iTECSによる計測結果からコンクリートの内部状況を推定した結果は、図-2.2のとおりです。
・反射時間の短い部分について現場確認を行った結果、写真-2.2のように、覆工とセグメントの間に空洞が確認されました。

3コンクリート表面付近の品質評価

コンクリート表面をインパクターで打撃したときにインパクターがコンクリート表面に衝突してから押し戻されるまでの接触時間を測定することで、コンクリート表面付近の品質を推定します。
接触時間はコンクリート表面付近の弾性率によって変化し、弾性率が高くなると接触時間は短くなります。図-3.1と図-3.2は、コンクリートの配合や養生方法の違いによる接触時間の違いを表しています。コンクリート表面付近の品質が向上すると接触時間が短くなることがわかります。この性質を利用して、接触時間を測定することにより、コンクリート表面付近の品質を相対的に評価します。

測定手順

1.試験対象のコンクリートと同じ材料のコンクリートにより供試体を作製する。
2.供試体の養生方法は標準的な方法とし、基準材齢時等に供試体で接触時間を測定する。
3.試験対象のコンクリート(実構造物)で接触時間を測定し、「2.」の結果と比較する。

適用例

コンクリート表面付近の品質はコンクリートの耐久性能に大きく影響します。近年は新設するコンクリート表面付近の品質を向上させるために、様々な施工方法の工夫がされています。実構造物で接触時間を測定することにより、施工方法を工夫したことによる、実構造物のコンクリート表面付近の弾性係数の変化を、直接確認することができます。

本技術はリック株式会社と国立研究開発法人 土木研究所が共同で特許を取得しています。 特許第4565449号

4ひび割れの深さの測定

コンクリート表面にひび割れが確認される場合に、そのひび割れの深さをiTECSにより測定します。

測定方法

ひび割れ部の近傍でコンクリート表面をインパクターにより打撃すると、コンクリート内部を伝搬し、ひび割れ先端を回折する弾性波が発生し、表面に最も速く到達します。表面に最も速く到達する弾性波の種類は、ひび割れ先端を回折するときの角度θによって変化します。急に変化する境界を「臨界」といいます。ひび割れ先端から回折する波は、ある角度で性質の異なる波に変化します。このときの角度を「臨界角」と呼び、角度θ<臨界角の場合には引張波、θ>臨界角の場合には圧縮波となります。コンクリートの臨界角は90°です。また、コンクリート表面に設置したセンサーで、表面に最も速く到達する弾性波を測定すると(図-4.1)、引張波は下に凸形状(図-4.2の上図)、圧縮波は上に凸形状(図-4.2の下図)と測定波形は変化します。
以上の性質から、センサーの測定波形の第1波に着目すれば、以下のとおり判断できます。
●下に凸形状⇒θ<臨界角
●上に凸形状⇒θ>臨界角

測定方法

1.ひび割れ開口部を中点として、センサー設置点、打撃点が一直線となるように測定点を設定します(写真-4.1)。
2.センサーと打撃点の距離Lを徐々に長く変化させ、弾性波がひび割れを回折するときの角度θを徐々に大きく変化させます。
3.センサーの測定波形の第1波に着目し、測定波形が下に凸形状から、上に凸形状に変化する距離L0を決定します(図-4.3)。
4.コンクリートの臨界角は約90°であることから、ひび割れ深さDは次式により求められます。D=L0/2